製品の誕生秘話

Susumu’s TIEのネクタイは全て、ここでしか手に入らない特別なものです。
これらの商品が生まれたきっかけは、Susumuの不満です。Susumuは長い間、北海道に本物の紳士服を根付かせるという気概で、英国から輸入したスーツの生地を卸す商いをしていましたが、いつも何か物足りないと感じていました。

Susumuはカスタマー(消費者)を知るために、顧客(テーラー)の店先で雑談をするよう心がけていました。自ずとフルオーダーのスーツに身を包んだ常連たちと顔を合わせます。そこでは誰もがピッタリと肩や胸に張り付きウェストには吸い付くようにシェイプした服を着ていました。構築的な英国式スーツです。しかしその紳士たちのネクタイが、ハッキリ言ってどれもダサいのです。

Susumu
は、自身が販売した高級英国生地で仕立てられたスーツを着る紳士たちが、適当なネクタイを締めていることに我慢なりませんでした。英国式のスーツ文化を愛する札幌のビジネスマンに、その体型にぴったりと合う本物の英国タイを身に着けて欲しくて仕方ありませんでした。

そしてSusumuはついに動きました。ウールのスーツ生地専門の男が、ネクタイに手を出したのです。出来る限りの調査をしたうえで信頼できるルートに「本物の英国タイを頼む」と伝え、いざ仕入れてみても、ありきたりのライセンス品ばかり。生地の質、柄ともに満足いくものがありませんでした。それでは、と直輸入も模索しましたが、欧米人向けの商材は、長さ145150cmが多く、どう考えても日本人には長すぎます。生地も過剰なボリューム感のものが多く、ぼってりとしています。大好きなレジメンタル柄もトレンド感を出すためなのか派手すぎです。そしてプリントものは大味で、デジタルっぽさが強すぎました。

Susumuは英国
タイへの熱意と仕入れの悩みについて、古くから付き合いがある神戸の貿易会社の藤川さんに話しました。氏はひとしきりSusumuの話を聞き、「そしたらあんたが作りなはれ。手伝いまっせ。」と思いがけない言葉を返してきたのです。

こうしてSusumuは、若かりし頃の自分が京都や日本橋の丸善で入手して心酔した「サヴィルロウの空気をまとった英国式タイ」を本気で作ることとなります。Susumuが作りたかった本物の英国式タイの仕様を言語化すると、以下のようになります。

1.シルクロードの端と言われ最高の品質を誇る英マックルズフィールドのマックルズフィールドのシルク生地を使うこと

2.チャールズ皇太子に気に入ってもらえるようなものであること

3.靴に例えるとジョンロブやエドワードグリーンのように30年でも50年でも身に付けられる普遍的なデザインと品質であること

4.シーズナルや流行を無視し、英国軍の連隊旗や名門大学の校旗を参照したコンサバティブなレジメンタルを作ること

5.デジタルプリンターでなく、職人による手作業のシルクスクリーン技法でプリントタイを作ること

6.プリントタイも流行を無視し、デビッドエバンスなどが完成させた伝統的な版を用いてドット、ペイズリー、マダーを用意すること


こうした条件を満たすため、どうしても、生地はシルクの聖地マックルズフィールドにあるアダムレイ社のものを使いたいと考えました。

アダムレイ社の最大の特徴は、(英国らしさの所以である)伝統的な柄とハンドプリント技法(と膨大な金属製の原版)を維持する姿勢です。ハンドプリントはデジタルプリントに比べてボヤけず繊細に仕上がり、しかもシルク繊維の奥にまで染料が入るため、経年による色あせやくすみがほとんど見られません。

単色のシルク生地を枠にセットし、色の数の版画をしていくのですから、とんでもなく手間がかかる製法です。紳士諸兄もエルメスのスカーフの値段が持つ意味が少しだけわかるってものです。(ただしあちらはもうひとつの名産地リオン製ですが。)

(左)David Evans-Adamley社-Digital Printingによるペイズリーチーフ 筆者私物
(右)Susumu's TIE-Adamley社-Hand Screen Printingによるペイズリータイ 当店商品

今日では高級ネクタイの代名詞であるナポリのマリネッラや、ロンドンのH.N.White等がアダムレイ社の生地を採用していることが知られています。ただ、こうしたグローバル展開の既製品は、日本人には少し長いかもしれません。

神戸の藤川さんの尽力により、丸善さんやビームスさん等で良質な英国タイを日本に広めた実績のある、ジョンコンフォートを通じてアダムレイ社にアプローチし、生地の仕入れが可能となりました。そして、英国式の着こなしをする日本人紳士に最も普遍的なサイズの「大剣幅8.3cm、全長137cm」に設定し、信頼出来る京都の工場で縫製することを決めました。こうしてアダムレイ社の生地によるジョンコンフォートブランドBy Susumu's TIE製品が完成したのです。

当然返品など出来ませんが、在庫を抱えるリスクなんてものはSusumuの頭にには微塵もなかった。要はランナーズハイです。まるでビームスさんやリングヂャケットさんあたりのバイヤーが行うようなことを札幌のいち個人がやったのです。もはや狂気の沙汰と言えるのではないでしょうか。